技能実習生の失踪問題

技能実習生の失踪問題

はじめに

技能実習生の「失踪」に関する話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。日本で働く技能実習生は年々増加していますが、一方で失踪者も増えてきています。

在留資格が取り消され、不法滞在となることを理解してまでも失踪する理由は、なんでしょうか?
母国では意欲が高かった実習生が、日本に来てから失踪してしまう原因は、なんでしょうか?

今回は、失踪の原因、防止策、また企業に対するペナルティなどを確認していきたいと思います。

技能実習生が失踪する理由は?

受入企業に原因がある場合

まずは、技能実習生への暴力が挙げられます。

国籍や宗教、肌の色や性別に基づく差別、妊娠した際の不当解雇、暴言を含むパワーハラスメントなどが日常的に発生しています。これらの問題は、経営者や従業員が適切な倫理観を持たずに行動することが一因となっています。さらに、人権侵害を超えた不当な解雇や暴力行為も報告されています。

劣悪な労働環境もまた、技能実習生の失踪を引き起こす要因です。過酷な長時間労働、休暇の未提供、職場でのいじめや暴言、劣悪な住環境(例えば狭くて不衛生な寮)などが挙げられます。これらの問題が重なり、技能実習生が失踪せざるを得ない状況に追い込まれるのです。

また、金銭面が原因になることも少なくありません。

技能実習生のほとんどが、お金を稼ぐために日本にやってきます。現在は、FacebookなどのSNSで他の実習生の給与と比較することが容易です。あまりに低賃金の場合、転職ができないルールということも相まって、失踪を考えてしまうのです。

その他、契約された給与を支払わない、勤務実績を記録しない、拘束時間を勤務外とみなす、残業代を全く支払わない、または減額するなどの未払いが見られます。

参考:技能実習生の給与相場

最低賃金?技能実習生の給与相場はいくら?

はじめに 技能実習生の給与は、受入企業にとっても技能実習生にとっても重要な問題です。特に、2024年7月現在では大幅な円安が進み、日本ではなく韓国やドイツ、オースト…

実習生に原因がある場合

技能実習生に原因がある場合、金銭面が問題であるケースが多いです。

日本入国前、母国にて日本語学習や寮の費用を支払っていますが、それに加えて、送出機関やブローカーへの多額の紹介料が大きな負荷になっています。多額の借金を背負うことも少なくなく、日本での給与では十分でないと判断した場合は、失踪して不法就労を行うケースが発生しています。

また、多くの実習生が、母国の家族への仕送りを行なっています。しかし、家族のお金の使い方に問題がある場合、仕送り額が多すぎる場合、実習生の仕事や生活が苦しくなり、失踪してしまうケースもあります。

借金の状況や、家族との関係性については、受入企業側も把握しておいたほうが良いでしょう。

失踪を防止するには?

適正な送出機関、監理団体を利用する

まずは誠実な対応を行う監理団体を選定し、日々の適切なサポート体制を構築できるようにしましょう。

また、現地の送出機関の選定も重要になります。悪質な送出機関の中には、実習生から多額の費用を請求したり、失踪した場合の保証金を徴収しているところもあります。外国政府認定送出機関一覧は、外国人技能実習機構(OTIT)のホームページで確認できます。

付き合う送出機関、監理団体は、必ずしも1つである必要はありません。実際に担当者と話をしたり、現地を訪問しながら、慎重に選択するようにしましょう。

待遇についてしっかり説明する

まずは、額面給与と手取金額についてしっかりと説明しましょう。時々、受入企業が正当な支払いを行っていても、不満を感じる実習生がいますが、多くの場合は手取りの金額を理解していません。

日本の法律が適用されるため、給与から雇用保険や健康保険、国民年金などが控除されること、また、家賃や水道光熱費等をどうするか等も確認を行いましょう。

また、残業は実習生がよく気にする部分ですので、残業の条件や頻度についても事前に擦り合わせておくことが重要です。

借金や返済計画を確認する

多くの技能実習生は、母国の送出機関に多額の費用を支払う関係上、借金をすることがほとんどです。

その額が返済可能な範囲なのか、返済計画はどのようになっており、毎月いくら返済する必要があるのか、面接の時点で実習生と受入企業の両者がしっかりと把握しておくことで安心して働くことができます。

失踪してしまった時、その後の対応は?

突然出社しなくなり、寮の荷物が片付けられ、電話でも連絡がつかないのが失踪です。その場合は、次の対応をしましょう。

監理団体へ連絡する

すぐに監理団体へ連絡してください。送出機関や母国の家族とも連絡を取り合い、受入企業とともに実習生を探します。

警察に捜索願を出す

貴重品や携帯電話、パスポートなどが置いてあるのに本人がいなくなったケースでは、事件に巻き込まれた可能性も考えられます。警察に相談して捜索願を出しましょう。

寮の状況や、その他の実習生の確認する

会社の同僚、実習生に、失踪者について聞き取りを実施しましょう。最近不審な動きや発言がなかったか、最後に会ったのはいつか、なんらかの手段で連絡が取れないかなどを確認してみてください。また、寮へ立ち入り、施錠状況や、荷物の状況等を確認してください。

外国人技能実習機構に「技能実習実施困難時届出」を提出する

外国人技能実習機構へ「技能実習実施困難時届出」を提出する義務があります。失踪先が分かっていても、届け出る必要がありますので、管理団体と協力して対応するようにしてください。

失踪した実習生の退職手続きを行う

上記、技能実習実施困難時届出を提出した後は、退職手続きを行なってください。失踪するまでの給与は本人の口座に振り込む必要があります。また、社会保険、雇用保険、年金等の資格喪失手続きが必要になります。

受入企業へのペナルティは?

受入企業が、労働基準法や技能実習法に違反していた場合、さまざまな要因を考慮して罰則処分を受けることになります。また、重い法令違反等がある場合、技能実習生の新規受入れが停止となる可能性が高いです。

また、受け入れた実習生が失踪したということは、少なくとも受入企業側にも何か問題があったのではないかと判断されます。その結果、優良認定の基準を満たせなくなる可能性もあります。

優良認定を得ると、受入人数枠の拡大や、実習期間延長などのメリットがありますが、認定のためのポイント制度の中に、下記のような判断基準があります。

・直近過去3年以内における失踪がゼロ又は失踪の割合が低いこと
・直近過去3年以内に責めによるべき失踪があること

もし優良認定を剥奪されると、今後の採用計画を再検討する必要があり、経営に大きな影響をきたすでしょう。

まとめ

技能実習生の失踪を防ぐことは一筋縄にはいきませんが、その理由や対応策を知っておくことで防げるケースがあるかもしれません。いずれにせよ、受入企業と実習生の関係性だけでなく、家族、監理団体、友人など、複数の関係性を良好に保っておくことが重要です。